柴犬界のキムタク

 もしもイヌの自慢大会があったら、一番になれそうな
高橋尚宏(たかはし・なおひろ)くんのママ。
きょうも元気に「先生、行くわよォ。きょうはワクチンよ!」と
電話がかかってきました。

 さあ大変。何がっていうと、ママが病院につくとまず、
コロのアルバムをドーンと広げます。
「先生、見て。いちだんとりりしくなったでしょ。
柴犬界のキムタクだと思わない?」。
エッ!? それほどでも……と思っても、わたしが返事をする前に、
「ほれぼれして、声も出ないでしょう」と勝手に自問自答して、
待合室の人たちからもクスクスと笑い声。
とにかくにぎやかなの。


 コロは高橋家の「次男」だそうで、
正式名は「相馬清流号(そうま・せいりゅうごう)」。
どこのだれより立派な名前でしょ。
コロは、長男の尚宏くんが学校から帰ってくる時間が
一日の中で一番好きです。
頭の中に時間がインプットされているのか、
夕方の四時ごろになるとソワソワし始めます。

 「コロ、ただいまぁ」と尚宏くんがいうと、
コロはたぶん心の中で「おかえりー」といいながら、
大バトルが始まります。つまり、取っ組み合いです。
ひとしきり遊ぶと、尚宏くんは宿題です。
コロは次の散歩の時間まで、尚宏くんのとなりの指定席で、ゴロンとお昼寝。

 散歩は、こわいもの知らずのママと、慎重なパパ、
それと尚宏くんの三人で、近所の境川(さかいがわ)ぞいの
サイクリングロードを往復十キロくらい歩きます。
ママのダイエットをかねているのですが、
ママは「あー、たくさん歩いておなかがペッコペコ」と、
夕食をいっぱいとるので、何だかコロが来てから、さらに太ったみたい。

 コロは尚宏くんのごはんをねだりますが、
しつけの上でも栄養の面でも、あげないほうがいいと教わったので、
あげません。
ところが、ママは何でもあげるので、尚宏くんはこまっています。

 ママのイヌ自慢、尚宏くんの飼育相談、
パパが担当するコロのワクチンプログラムなどを話しているうちに、
コロはねむくなっちゃいました。

 「ホラ先生、寝顔もばつぐんでしょ」とママ。
「次の人、まってるよ」と尚宏くんのほうがちょっぴりあせって、帰りました。
イヌが来て、小さな幸せみーつけた気分。