危機管理


 思いがけないことって、案外身近なところで起きるものです。
ある日、全部のつめが取れかかったハムスターが連れてこられました。
「何か心当たりある?」。
泣きそうになって、ジャンガリアンハムスターのハーちゃんをだいている夢ちゃんにたずねました。
けんか友だちのムーちゃんとは小屋をわけてあるし、けがをしやすいはしご型のまわし車も使っていないといいます。

 双眼ルーペという、虫めがねよりずっと倍率が高い特殊なめがねを使って、つめの根元をよくみると……、キラッと光る細いものがあります。
「綿か何か入れた?」と聞くと、寒いかなあと心配になって、モコモコした綿を小屋の中にしいてあげたそうです。
綿の繊維が細いクモの糸みたいにほつれてハーちゃんの脚の指先にからみ、いつの間にかしめつけていて、血液のめぐりが悪くなったために、つめが取れかかっていたのです。
たえず動くハーちゃんの脚にからんだ細い糸を取るのは、ひと苦労でした。

 うちの病院だけでも、綿事件はハムスターで三件、ジュウシマツと文鳥が一件ずつ、友だちの病院でも、ハムスターで二件、学会の報告でも出始めました。

 イヌにも、こんな事故がありました。プードルの頭の毛を結うときに耳の先もいっしょにはさんでいて、耳の先っぽが取れてしまったり、「うるさいから」と、ふざけてコッカスパニエルの口に輪ゴムをはめたことをすっかりわすれて、上くちびると下くちびるがグルリンと切れてしまったり……。
寒いからとくつ下をはかせ、その上にはめたゴムが食いこんでしまったマルチーズもいました。

 いいと思ってやってあげたことや、軽い気持ちでやったことが、後で大事件につながることもあるんだよね。
物事すべて、危機管理が必要です。念には念を入れて、「注意一秒けが一生」と、動物たちに教わっている毎日です。
みんなも、ちょっと気をつけてね。