骨の病気と事故の予防とケア


なぜ骨が弱いのか?

「ウサギは骨が弱い」といわれる理由は、大きく分けると二つあります。  
一つは骨の質と量の問題です。
多くの専門書に、ウサギの骨は鳥に近いくらいとても軽くできていると書かれています。ちなみに体重に対する骨の比率を見ると鳥は5%で、空を飛ぶために軽くできています。次に少ないのがウサギで、わずか7〜8%しかありません。
猫は13%、ヒトが18%といわれていますから、ウサギの骨がどんなに弱いか、よくわかると思います。  
もう一つは、ウサギの性格です。気は強いのに神経質な一面があるということです。
怖がりなので、いつもと違うことがあると、びっくりして暴れてしまいます。
飛び下りたり、バンと跳ねたりして骨を折ることが、他の動物に比べると多いのです。

骨が弱いとどんなことが起こるのか?


実際に起こった事故を検証します。    
Yさんは、飼っているシロちゃんのおしりが汚れていたので、洗ってあげようと思いました。嫌がるシロちゃんを、Yさんは必死で押さえて洗いました。
その直後からシロちゃんの両足はだらんとして、歩けなくなってしまいました。
私たちの病院へ連れてきたので診察したところ、何と背骨が折れて、神経まで痛めていました。  

Aさんのピョン子ちゃんはテレビの上が大好きです。
いつものようにテレビの上にいたところ、テレビにかけてあったカバーに足の爪が引っかかりました。あせったピョン子ちゃんは大暴れ。
そのまま下に不自然なジャンプをして、右の前足を骨折。今はギプスをはめています。

Tさんの家には元気な小学校1年生の男の子、ケンちゃんがいます。
一人っ子なので、弟分のウサギのウサ吉と毎日遊んでいます。
ある日、ウサ吉がそばにいるのをすっかり忘れて踏みつけてしまいました。
ウサ吉は、ジャンプに大切な後ろ足を骨折してブラブラになり、手術をしました。

いままでの3例とは違ってケージの中にいただけなのに、骨が折れたウサギもいます。   ラブちゃんはKさんが飼っているウサギです。
その日、Kさんの友人が、グルちゃんというビーグルのオスを連れて遊びに来たそうです。
グルちゃんはラブちゃんと遊びたくて、ケージの外からクンクンとラブちゃんの匂いを嗅ぎました。
不意をつかれたラブちゃんはビックリ!! 
ケージの中をバンバンと跳ね、自分で自分の右足を骨折してしまいました。

予防と対策


逃げ出そうとするウサギを押さえるときやブラッシング、シャンプーをする場合、あまり強くギュウギュウ押さえると背骨や首の骨を痛めることがあります。
包み込むようにそっと押さえるのがコツです。    
いつの間にか爪が伸びすぎ、足を引っかけて骨折することがあります。
布やタオルのほつれに爪を引っかけたり、ケージのスノコや網目に挟んで骨折することもあります。
多頭飼育には楽しみもありますが、管理が行き届かなくなることが考えられます。
爪が伸びすぎていないか、最低でも2ヵ月に一度はチェックしましょう。    
ウサギと遊ぶときは時間を決め、目を離すことがないようにします。
意識が他のことに向いているときによく事故が起こります。
特にお誕生会など、たくさんの人が集まっているときなどは要注意です。
また、ウサギは座って抱っこします。
座った高さなら、抱っこに飽きたり驚いたりして急に飛び下りても、骨折するほどの事故につながることは少ないからです。    

ウサギはとてもデリケートな動物です。
フェレットのように好奇心が旺盛な動物ではどんなことにも興味津々ですが、ウサギは初めてのことはすべて苦手です。
知らない人、動物、初めて聞く音などに対して、こちらが驚くような反応を示します。
突然跳ねたり、飛び下りようとしたり、怒って足をバンバン踏みならしたりします。
ケージ越しでも他の動物と一緒にすることはもちろん、動物病院やペットホテルに初めて連れていくときも、ウサギにとっては一大事で、かなり興奮します。
移動中に暴れてキャリーのメッシュなどに爪を引っかけることもあるので、座布団カバーにすっぽり入れて運ぶと安心です。座布団カバーに入れるときは、頭からそっとかぶせるようにして入れると、ウサギはあまり暴れません。

日常の注意点やケアの方法

1 爪切り、シャンプーなどを嫌がるウサギの場合は無理に押さえつけず、動物病院で定期的にケアしてもらいましょう。
2 足や爪を引っかけそうなものは取り除き、ケガをしにくい環境を作ります。
ループのあるじゅうたんなどにも注意しましょう。
3 ウサギと遊ぶときは、ウサギに合った遊び方をします。
また、安全で静かな場所で遊ばせます。
リードを付けていると、何かに驚いたとたんに骨を痛めることがあります。
4 初めてのことはとても苦手でも、慣らすことができる動物です。
怖くないことを少しずつ教えてあげましょう。
5 折れた骨が元どおりになるには1ヵ月くらいかかるので、安静が大切です。

骨を強くするには

犬や猫、ヒトでは、骨や歯を強くするにはカルシウムを摂取すればいいというイメージがあります。
ウサギの場合でも、骨を丈夫にしたいといってカルシウムたっぷりのオヤツやアルファルファを与えている飼い主さんがいます。
ところが先月のオシッコの色で説明したとおり、ウサギはカルシウムを摂りすぎると尿道結石ができやすくなります。
カルシウムの摂りすぎには注意し、栄養のバランスのよい食餌を心がけましょう。  

肥満になると、手足の骨や背骨に負担がかかるだけでなく、運動能力も鈍くなり、骨折しやすくなります。
骨にとって肥満は大敵なのです。
太りすぎないような食餌管理を心がけましょう。  
そのためには牧草中心の食餌にします。
牧草は高繊維なので肥満を防ぐだけでなく、胃腸の運動を活発にして毛球症を防いだり、歯の摩耗を促進して不正咬合の予防にもつながります。
牧草にもいろいろな種類がありますが、カルシウム含有量の少ないチモシーがいいでしょう。  
骨を強くすることは難しいので、バランスのよい食餌などで肥満を防ぐことが骨折の予防につながります。

コラム FAQ
 
「仕事はウサギ次第」というTさんが、ウサ吉を連れてきました。
つまり、ウサ吉が病気になったら仕事は二の次で動物病院へ来てしまう人なんです。
「今は先生と仲よくなって、なーんでもすぐに相談できるけど、最初は、忙しいのに質問したら悪いかなとか、こんな些細なことを聞いたら嫌がられるかなって、聞きたいことも半分くらいで終わらせていたの」と告白してくれました。  

そこで、今回は私たちの病院でよく聞かれる質問をまとめてみました。  
まず、どうやって連れて行ったらいいかと、何を持っていったらいいかについてです。
私たちの病院でおすすめしているのは座布団カバーを使う方法。
座布団カバーだけでなく、息ができる布袋ならOK。
持ってきてほしいのは普段のエサと便です。
尿をスポイトやお弁当のしょう油入れで持ってきてもらえると大助かり。  

次にエサの内容と量です。
一に牧草、二に牧草。牧草はたっぷり与えてください。
ペレットはチモシーベースのものをひとつかみ。
ウサギは嘔吐しないし、草食性なので大きな盲腸を持っています。
牧草を中心に与えていると歯の不正咬合や毛球症の予防効果もあって安心なのです。
特に、最近は体の小さいドワーフ型が多くなって、不正咬合が増える傾向にあるようです。
牧草をしっかり食べるウサギにしたいですね。  

続いて多い質問は、爪を切ろうとすると暴れるけれどどうしたらよいかというものです。
二人がかりで袋に入れて、手足だけを出して切る方法もありますが、嫌がることを無理に行うのは危険を伴います。
2〜3ヵ月に一度、健康診断をかねて病院に来て爪を切る子もいます。  
かみつかれたり引っかかれたりして困っているのに、自分のしつけが悪いからだと思って、相談できずにガマンしている飼い主さんもいらっしゃいます。
実は、うちのウサギのプーも私にだけかみつきます。
これは、ウサギに「なめられて」いるのです。
ウサギは順位付けをする動物なので、人間が上位にいることを教えてあげる必要があります。
手のひらで、頭を上から押さえるようにして、大きくゆっくりとなでつけます。
そうすると、こちらが上位という合図になります。  
そうそう、赤いオシッコが出たと、心配してとんでくる人もまだまだ多いので、「みんなで学ぼうウサギの医学」を読んで勉強してね。  
いろいいろな質問や相談をしてもらったほうが、私たち獣医師はうれしいのでいつでもどうぞ。
鼻は、犬や猫と違って湿ったツヤツヤした鼻鏡はなく、全部毛で被われ、普通は濡れていません。
鼻(鼻孔)のまわりが汚れている時は、病気で鼻の穴(鼻腔)から分泌物が出ているときです。